生命知能システム研究室

研究分野:情報学・工学・生物学の融合により,生物の脳神経系がもつ環境適応能力を理解し,その応用をめざす.モデル生物として培養神経細胞,昆虫,ラットを対象とする.脳神経系をニューロン・神経回路・行動にいたるマルチスケールで分析し,その数理モデルをロボットにより実世界で検証することで,脳神経機能を解明する.また,生物(脳神経系)と機械システムを融合した実験系や,遺伝子改変技術によりセンサ(感覚器)や神経機能の一部を人為的に改変した実験系により,行動を任意に制御することで,適応行動の発現機構を解明し,適応能力を有した機械システムの設計指針に迫る.

研究例:
(1)脳を知る・脳に学ぶ
■ 昆虫のセンサ・神経回路を組み込んだ環境適応型ロボット
生物は,自ら運動して環境と相互作用しながら,行動アルゴリズムを時々刻々とダイナミックに変化させる.環境適応の3大要素である環境・脳・身体の関係を実験中に操作できるように生物と機械が一体化した実験装置を開発し,適応能力とは何かを調べ,適応能力を有した機械システムを構築する.生物のもつ多種感覚情報処理のアルゴリズムを分析し,実機に搭載し,その有用性を検証する.また,実機での結果を生物研究に活用する.

■ 神経インターフェースの開発
微細加工技術・実装技術を駆使して.生きた脳から実際に神経信号を計測する技術を開発する.

(2)脳を変える
■ 脳の書き換え
脳はリライタブルな素子である.何かを記憶すると,必ず脳の情報処理機構は書き換わる.ラットの脳の情報表現を微小電極アレイで調べると,脳の情報表現は学習実験や電気刺激でダイナミックに変化する.これを応用して,脳を書き換えたり,記憶を操作する基礎技術を開発する.脳卒中などのリハビリテーション技術の開発をめざす.また,書き換えと認知の変化との関係を調べるために,脳内多点計測技術やデータ解析技術を開発する.

■ 遺伝子操作によるセンサ・神経回路の改変
センサ(感覚器)や神経回路の設計図は,遺伝子に書き込まれている.遺伝子改変により,センサや神経細胞の機能をアクティブに改変することで,その機構を理解し,生物的機能をもつ機械システムの構築をめざす.センサ昆虫,神経回路の人為的設計をめざす.

(3)脳を創る
■ 数理モデルによる昆虫脳の再構築
研究室では昆虫脳に関して,分子遺伝学,形態学,生理学,生化学、行動学など多様な手法で得られた,網羅・機能的実験データをデータベースに蓄積している.これらの情報を統合し,昆虫脳による匂い識別機構,適応行動発現の数理モデルを構築する.モデルは実機で検証する.

■ 培養神経細胞によるニューロンコンビュータチップの開発
神経細胞は,シャーレ上に播種するだけで,自己組織的にネットワークを構築する.このような培養神経細胞に様々な演算機能を持つネットワークを形成させる技術の確立を目指し,脳の設計指針に迫る.例えば,ネットワーク形成中の適切な「教育用」外部刺激で所望の自己組織化の誘導を試みる.


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